「サイバー攻撃が増えている」という報道は、年々 大きくなる。しかし、その “増加” が何を意味しているのか、報道だけから読み取るのは難しい。現場で防御を組んできた立場から、冷静に論評してみる。

数字で見る「増加」の実態

国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)が運用する大規模ダークネット観測網「NICTER」の年間観測パケット数は、2015年の 約545億件から、2024年には 約7,000億件へ。10年で約12.8倍。

警察庁の統計でも、国内のランサムウェア被害届出件数は、2021年の 146件から 2024年の 222件へ、着実に増加している。被害企業の 半数以上が中小企業だ。

NICTERの数字は「観測ネットワークに届いた攻撃関連通信」であり、実世界で発生している攻撃の総量ではない。それでも、同じ観測条件で10年計測して12.8倍。攻撃は “来るかもしれない” ではなく、“今日も確実に来ている” が現実だ。

なぜ増えているのか ── 攻撃側の変化

1. 自動化とAI化

攻撃は手作業ではなくなった。スキャナーが24時間、無差別に世界中のサーバーを調査する。弱いパスワード、古いVPN機器、未パッチの脆弱性を見つけ出すのは、もはや数秒の仕事だ。

2. RaaS(Ransomware-as-a-Service)の普及

ランサムウェアはサブスク化した。技術力の無い犯罪者でも、月額で “攻撃ツール一式” を借りて、簡単に金銭を得られる仕組みができ上がっている。参入障壁が消え、攻撃者の数は爆発的に増えた。

3. 二重脅迫モデル

以前のランサムは「暗号化して身代金要求」だけだった。今は違う。先にデータを窃取してから暗号化する。「払わなければ暗号化を解かない上に、データを公開する」── これにより、バックアップがあっても身代金交渉のテーブルから降りられない構造になった。

なぜ増えているのか ── 社会構造の変化

1. DX推進で、攻撃面が増えた

社内システムをクラウド化、業務をWeb化、取引をオンライン化。便利さと引き換えに、インターネットに晒される面積が、企業ごとに何倍にもなった。

2. テレワーク定着で、VPN・RDPが入口になった

2020年以降、急いで導入したVPN機器が、そのまま侵入経路になっている。警察庁の統計では、ランサム被害の侵入経路の約63%がVPN機器の脆弱性。パッチを当てていないVPNは、看板を立てて “ここから入ってください” と言っているのと同じだ。

3. サプライチェーン攻撃の増加

大企業は守りが固い。だから攻撃者は、大企業と取引のある中小企業を狙う。中小企業は “大企業への入り口” として狙われる。アスクル事件(2025年)で無印良品・ロフトのECにまで影響が波及したのは、まさにこの構造。

報道の裏にあるもの

ニュースで被害が報じられるのは、たいてい大企業や有名組織だ。アサヒ、アスクル、カドカワ、名古屋港、タイムズ。これらは氷山の一角であり、本当は中小企業で日々、はるかに多くの被害が起きている。

“中小企業は狙われていない” のではなく、“狙われていることが見えていない” だけだ。「大企業ばかりが被害に遭っている」という印象は、報道の構造的バイアスでしかない。

中小企業経営者が持つべき、冷静な論評

攻撃が増えているのは事実だ。しかし、この事実から煽られて高額なセキュリティソリューションに飛びつくのは、別の意味で危険だ。

高額なセキュリティ・コンサル契約や、エンタープライズ向けのEDR製品を導入する前に、まず基本の防御を積み上げる方が、はるかに費用対効果が高い。詳しくは ANCHOR Defense で解説している。


30年、現場で業務改善と IT運用を見てきた立場から言う。

サイバー攻撃の増加は、本質的には止まらない。悪意、技術、社会構造、地政学 ── 全てが「増える側」に働いている。

経営者ができるのは、流れに逆らうことではなく、自社の身を小さく、硬くすること。偵察段階で遮断する防御があれば、少なくとも「次の標的」にはならない。

煽られず、淡々と、基本を積み上げる。それだけが、この時代に効く唯一の戦略だ。